建築計画
2017.11.26

第1章 -わたしと家の約80年のものがたり-

1993年 郊外に建つ祖母の家

 幼い頃よく祖母の家にいたという記憶がある。太陽の光が射し込む窓際で祖母によく遊んでもらった。大きな窓から見た景色や空は、幼かった私にとって、どこまでも広がる未知の世界だった。亀のシンをひたすら眺めて一日中ボーッとしながら過ごしたこと、私を見かけるといつもお菓子をたんまり持ってきてくれる、お隣のアキモトのおばちゃん。祖母が振る舞ってくれるおいしい手料理、どこか懐かしい匂いのする居間。あの日、あの瞬間、あの場所の記憶はいまも鮮明に覚えている。
 都会でのせわしない毎日、家と学校を行き来するだけの生活。名前も顔も知らない隣の部屋の住人は、昨日引っ越したらしい。幼い頃に祖母とともに過ごした、あのあたたかい時間は、今もこの世界のどこかにあるのだろうか

 祖父が亡くなってから数年間、三鷹で一人暮らしをしていた祖母がこの春、亡くなったと知らせを受けた。両親が共働きであったことまり、幼少期から祖母の家で過ごす時間が多かった私にとって、とても大きな感慨があった。築30年の祖母の家はハウスメーカーの建売住宅で、わたしにはまだ使えるように思えたが、小さいながらも一応「都内の一戸建て」に住む両親は移住する気もなく、「あの家と土地、今売ったらいくらになるかしらねえ?」などと、すでに不謹慎な会話で盛り上がっている。
 本当に売ってしまったなら、もうあの町に行くこともないのだろうか。あのあたたかな世界がまぼろしになってしまうのではないか。「そんな事したら、おばーちゃんの代わりに私が呪ってやるからね!!」と真顔でひと芝居を打ち、一応事なきを得た。